高松高等裁判所 昭和26年(う)507号 判決 1952年8月30日
控訴人 被告人 馬居きみえ
検察官 田中泰仁関与
主文
本件控訴を棄却する。
理由
被告人の控訴趣意は別紙に記載の通りである。
本件記録を精査し総べての証拠を検討するに原判決挙示の証拠により被告人は古物商馬居兵瑞の妻として夫の不在の時は常に夫に代つてその業務に従事中、原判示のように古物を買い受けるに当り、古物営業法施行規則第二十二条の「直接にその相手方の住所氏名を確かめ、又は身分証明書、主要食糧購入通帳、定期乗車券等その相手方の住所、氏名、職業、年令を確めるに足りるものの呈示を受ける」方法により、その相手方の住所、氏名、職業及び年令を確認しないで、西野長利より同人が窃盗したジヤンバー一枚を代金二百十円で買い受けた原判示事実を認めることができる。かゝる場合古物営業に現実に従事した被告人には古物営業の従業者たるの許可がなくても古物営業法第十六条第二十九条の違反罪が成立することは勿論であり、このことは古物営業法第三十三条の「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務又は財産に関し、第二十七条から第三十条までの違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する」の規定によつても明瞭である。論旨は理由がない。
その他職権で調査するも刑事訴訟法第三百七十七条乃至第三百八十三条に規定する事由が認められないから、同法第三百九十六条により本件控訴を棄却する。
よつて主文の通り判決する。
(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 平田茂男)
被告人の控訴趣意
徳島簡易裁判所が昭和二十六年三月二十二日言渡された有罪(罰金壹千円)の判決は法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をしたのであるがその理由を左記の通り明らかにし原判決の破棄を求める。
理由
一、被告人は許可を得た古物商従業者でない。
一、然るに原判決は之が従業者なりとして昭和二十五年十二月二十四日頃鳴門市撫養町林崎字北殿町の営業所に於て住所氏名職業を確認せずして西野長利よりラシヤジヤンバー一枚を弐百十円にて買受けたとし又被告人においても許可を得た従業者でないことの申立をせざる侭古物営業法第十六条前段第二十九条に該当せるものと事実を誤認し本件刑罰を言渡されたのである。
一、依て被告人が許可を得た古物商従業者でない事実は別紙資料を以て之を疏明し事実誤認を明かにする。原判決は法令の適用を誤つてしたものであるから破棄を免れざるものと信ずるのである。